19歳の息子が言った。
「フリーターになろうかと思って。」
ついに来たかっー、『フリーター』
去年11月のある土曜日、彼は念願叶って一人暮らしを始めることにな
り、赤帽さん2台に荷物を積んで、横浜に引っ越して行った。
一人暮らしは快適で、なかなか実家には帰ってこない。帰ってきても、
地元の仲間たちと夜中中遊んで、朝の6:00に顔出す程度だったりする。
彼は今しっかり青春している。
でも、もう来年の3月でミュージックスクールは卒業なのだ。
それで、夏休みに聞いてみた。
「学校で就職活動とかって、あるの?」と。
冒頭の返事は、それに応えた返事なのだ。
川「フリーターになってどうすんの。」
息「んー、バンド活動とかやろうと思って。」
川「バンド活動って、バンドなんかやってないんでしょ?」
息「やってるよ。」
川「誰と。」
息「学校の仲間と3人で。」 ← 初耳
川「どうやって食っていくの。」
息「だからフリーターで。」
川「あんたねぇ、お父さんの仕送りもなくなるし、奨学金を貰うどころ
か、返していかないといけないんだよ。生活するだけで精一杯で、
バンドなんてやってたら、生活できなくなっちゃうんじゃないの?」
と、かなり前向きでない発言をした。
他人の子どもの相談なら、こんな言い方はしないのにねぇー。
そして、夏休みが終わる頃、私は言った。
川「頭からフリーターはダメだとは言わないけれど、今あんたは親の
すねかじりなんだから、卒業後、どうするつもりなのか、親に報
告する義務があるからね。フリーターが社会の中でどんなに不利
か、基本知識を学んだ上で選択するなら反対はしないから。」
川「職業を考えるときの先輩のプロを2人紹介するから、じっくり話
を聞いて、それから、卒業後をどうするか親に報告しなさい。そ
ういう基本的な知識も聞こうとしないで、フリーターやるという
なら賛成できない。」
というわけで、本人も聞いてみようという気になったのだろう。
ニートや若者のキャリア教育に力を入れているNPOの若者に、謝礼を
払って個人面談をしてもらった。
さらに、ベテランのキャリアの先生のカウンセリングを受けさせた。
私のメンターの先生である。
先生は、「川野さん、あの子は大丈夫ですよ。川野さんが作ったもの
の中では最高の作品ですよ! ちゃんと親に話してごらんと伝えてあ
るので、聞いてあげてください」と笑った。
数日後、行きつけの美容院で
「今日は彼がどういうつもりなのかをきく、元家族会議なのよ。」と
オーナーに話した。
するとオーナーのは
「へぇー、わぁー怖わー。僕、川野さんちの子どもじゃなくてよかっ
たー。好きなことやらせればいいじゃないですか。川野さん、起業
支援してるんでしょ。」だと。(^^;)
我ながら可笑しかった。「親は親になると違うのよ〜。何も就職しろ
と言ってるわけじゃないのよ。でも、やりたいことがわからない状態
で、フリーターやる位なら、ちゃんと就職して、キャリアを積んでい
く中で、やりたいことを見つけていけばいいじゃないかと思うのよ。
人は親になった途端に、まっとうになっちゃうのよ。
「チャレンジなんて、どっかに行っちゃうのよぉ〜。」てな感じで、
爆笑してしまった。
「川野さん、ご自分はこれから50歳のチャレンジだって言ってるじゃ
ないですか。息子さん、まだ19歳なんでしょ。」って言われてもね。
(笑)
本当に、親と言うのは、可笑しいものである。
子どもの職業選択の第一歩で、親が手も貸さない、知恵も貸さない、
をやりたいのかも知らない、どうするつもりなのかも聞かないで、
はい、生活費はもう出しませんよ。自分で好きなことをやりなさいな
んて、そんなことは絶対に私には出来ないし、それじゃ親としては普
通じゃないと思うのよね。
この私は、今、好きなことをして生きているけれど、親としては、
これでも結構普通なんだなー。(^^;)
自分が18歳で田舎の高校を卒業して上京してからは、東京のアパート
探しも、バイト先も、専門学校探しも、就職先も、何もかも一人でや
ってきた。礼儀も常識も何もないままに、ぽーんと、社会に出てしま
ったので、しなくてよい失敗や、失礼なこともたくさんした。
だから、最低限の、人とのつきあい方やマナー、こういうときはどう
すればいいのか、判断材料となることだけは教えてあげたいと思うの
だ。
それと、もう一つは、親としての価値観、生きていく上で、何を一番
大切に思って生きているか、親の譲れない“人”としての価値観を伝
えたいとよく思うのだ。
誰がなんと言っても、これをやりたい、音楽の道でやって行く!
どんなにつらくても構わない! 応援してほしい、家賃を出してほし
い! と、親を説得する位ならバッチリよ。遠慮なんかしなくて構わ
ないよ。
でも、「なんとなくフリーター」程度のフリーターではダメなのよ。
子どもを信じるということは、子どもの判断を信じるということだか
ら、判断に必要な材料を与えた上で、子どもに判断させたいと思う。
と言うわけで、さてさて、元家族会議をやりました。
その結果は?
「先生、あのー、あの子のどこが最高作品なんでしょうか。何が絶対
大丈夫なんでしょうか?」そう聞きました。
すると先生は言いました。
「川野さん、自分の意見をいわないで、ちゃんと聞いてあげてくださ
い。ただじっと、彼の言葉を聞いてください。親が言い過ぎてはだめ
です。」と、まるで見ていたかのようなことをおっしゃるのでした。
(^^;)
はい、傾聴、苦手なんです。
だから、もう一度、じっくり母子会議をすることになりました。
でも、どこか嬉しかったりして。(笑)
頼むから、誰がなんと言おうと、「僕はこれをやってみたいから力を
貸してほしい! 」と、親を説得するくらいの信念を、ポケットに入
れて持ってきなさいよ!
かわいい息子よ!
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