今にして思うと、随分大事なことばかり、私はその上司から教わっていた。その時はピンとこなかったことでも、今なら思い当たることがたくさんある。
「人生を楽しむには、嫌いなやつと一緒に仕事をしないことだ。どんなにおいしい仕事でも同じだ。」
「最後は人がすべてだということをきっとそのうちに分かる時がくる。人を大切にしなさい。」
「時間をかければ出来るというならそんな奴はいらない。それならプロでなくてもいい。」
「面接の時には『見る』だけじゃなくて『聞く』。目標をもって生きている人は足音が違うから。」
「なめてかかるな。どんな時にも謙虚さを忘れてはいけない。」
そして今でも一番強く印象に残っているのは、
「上手に生きるこつは『貸し』を返させないでつきあっていくこと。」という言葉。
何てシンプルで奥の深い言葉だろうと思う。
どんな人にも、人には言えないつらい時期があり、心を閉ざして自分を護る時がある。
「これから始まる苦しい時をきちんと受けとめて乗り越えなさい。自信をなくさないように、そのためにあなたを護る人を一時貸してあげよう。」その上司は、まるで誰かにそんなふうに言われて連れてこられたように私の前に現れた人だった。自信も目標もなくして壊れそうになっている私を仕事で鍛え、仕事上で起こる様々な場面を通して生きる基本と自信を与えた。
「川野さん、四十は若いんだよ。これは事実だ。絶対に忘れるな。四十から十年頑張ったときには相当になる。」
これが、キープラネットに専任を決めた時彼からもらったはなむけの言葉だった。
私も十年経って相当になったら、偉そうに全社員に言おう。「貸しを返させないように人とつきあいなさい。人を大切にしなさい。」と、そんなことを従業員もいない3坪事務所で一人考えていたら、ふと現実に戻り思わず赤面してしまった。ちょっと待て、十年先の貸しを返させない心配よりも、今いただいているたくさんの人からの「借り」をどうやって返すか、その心配の方が先だろうが。
あぁ、やっぱり十年早い。老眼は始まったけれど、四十はまだまだ若いんだね。
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