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須賀 亨さん |
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『イントレプレナーという生き方』
※この記事は2007年7月25日配信のメルマガ『きぷら』に掲載されたものです。
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(株)リコーに入社したきっかけは実は「消去法」、しかし、3年半前、自分の内側から湧き上った「自分を変え、組織を変える」という決意により、無謀にもたったひとりで取組んだ「組織風土変革」。独立・起業家ネットワーク「キープラネット」の中では、異色な存在、イントレプレナー(企業内起業家)、須賀亨さんにお話をうかがいました。
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Q |
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貴方のお仕事内容(業務内容)を教えてください。 職種は何にあてはまりますか? |
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A |
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現在、(株)リコーに勤務していますが、もともとの本職である技術企画とそのグループ(14名)を率いるリーダーとしての仕事、これはエンジニアであり組織マネージャーですね。
もう一方の職種は難しいですね。“組織変革ファシリテーター”とか“チェンジエージェント”と世の中では呼ばれているようです。
前者は通常の組織の仕事をきちんと回していくこと、後者は敢えてその組織を揺さぶり、いい意味でのゆらぎを与えていく仕事と言えるでしょうか。
今の時代その両方が必要なんですね。 |
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Q |
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今の仕事をはじめられたきっかけは? |
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A |
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先ず、(株)リコーに入社したきっかけですが、就職当時に人の生活にあまり密接ではない仕事は嫌だし、だからと言って、コンシューマーべったりもどうかなと思い、オフィス機器、事務機器かな〜というあまり自慢できない消去法で選びました(笑)。
入社から10年は、資材部門で電子部品購買に携わってていましたが、92年から現在の電子部品技術統括室に異動し、3年半前からは「自分を変え、組織を変える」という強い想いを持って「組織風土変革」の推進に携わることとなりました。
その活動の中で「オフサイトミーティング」という場を創り、創造的なコミュニケーションをサポートするファシリテーター、問題解決やプロジェクト推進に有効なアクションラーニングセッションを運営するALコーチを務めました。部門内では通称“世話人”と言われてま
した。 |
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Q |
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須賀さんが「組織風土変革」に取組まれたのは、今の仕事を「辞めよう」「辞めたい」と思われたのが、きっかけになったとのことですが、何があったのでしょうか? |
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A |
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「組織風土変革」を無謀にもひとりで立ち上げたのは、実は、まさに「辞めよう」「辞めたい」と思ったのがきっかけなんです。
私のいる部署は、いわゆる業務改革を推進する組織で、社内の技術コンサルテーション的な役割を担っています。今までの設計・開発の仕方ではなく、新しいやり方、切り口を提示する、つまり常に新しい付加価値ある何かを提案していかないといけません。
ですから、ビジョンとか方向性ありきなのです。
しかし、それを明確に示してくれていたカリスマリーダーとも言える初代部門長がガンで急逝してしまい「こういう方向性で業務変革するんだ!」というビジョンや方向性を提案できる人がいなくなったことで、進むべき方向性を見失ってしまいました。
それが最大の要因で、組織的に非常に混沌とした厳しい状況になってしまったんです。
停滞した組織の中にいる焦燥感、どんどん低迷して迷走を続けていく中で、同僚の管理職の連中にもかなり動揺が走り、私も一度は辞めようと思いました。 |
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Q |
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その時に辞めなかった理由は? |
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A |
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ある日思い切って部門長に「辞めたい」と申し出たら、役員にまで話が伝わって、部門長と一緒に呼び出され、慰留を受けました。「また正月明けに会おう、それまでじっくり考えろ」と言われました。
それで年末年始に、テレビも見ないでひとり考え続けました。
考えて、考えて、考え抜いて、最後に到達した結論は「逃げてはいけない・・・。」でした。
「逃げてはいけない」、何故かそんな決意が静かにできたのです。
もちろん「決心」とか「決意」とか言葉は知っていましたが、「あ、これが決意ってことなんだ・・・」とはじめて実感として分った気がします。
有態に言えば「逃げ癖をつけたくなかった」という様に受け取られがちですが、全身に体の底から響いた内なる声は、偽りのない自分の真実の思いだったと感じます。自分の内側から湧き上がる“声”には何故か抵抗できない。「理由は分らないけど、これには従わなくちゃ」、そんな想いでした。
「決意」ができれば、あとは「実行あるのみ」です。
自分が左脳や意識で思っているより、逃げないでそこに居続ける姿が本当の自分らしいのです。ちょっと見、カッコ良過ぎですけど、実際はドロ臭く悪戦苦闘の連続でしたけどね。(笑) |
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Q |
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須賀さんのお仕事上の夢はなんですか?
その夢を叶えるために何かはじめられていますか? |
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A |
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一つは、現在取組んでいる所属する組織の変革で、これは着実に進んでいます。
現在、コミュニケーションは増え、議論は裏に回らず正面で行われています。昔は敵同士だった連中が普通にコラボレーションしていて、いい感じです。
我々もそうでしたが、会社や組織がどんどん大きくなるにつれて、逆に大切なものがどんどん薄まってしまう危険性もあります。他部門や社外のお互いよく知らない異文化の人達とコラボレーションの機会も増えています。
そんな時に、ファシリテーターが、気楽でまじめな場を作って、オフサイトをやれば、澱んだ場にいい風を送ることができるんです。その結果、関係性が変わって、バラバラなメンバーが強力なチームに変身したり、俄然モチベーションがあがったりもします。
オフサイトやファシリテーションで「こなれていない場」に楔(くさび)を打つ仕事をしたいですね。
もう一つは“場作り”です。
これは会社とか組織に関係なく、広く世の中に向けてやっていきたいことですね。
「場」というのは、ワークショップなど、みんなで本音で語り合える「場」のことです。
私は対個人より、対集団や組織にモチベーションが湧きます。
作ってきた場の中では、人と人の相互作用で実にさまざまなことが起きます。
何時間かけても一向にまとまらなかった議論が、一瞬にして見事にまとまっていって、チームワークと意気が一挙にあがる瞬間とかを何度も体験し、「場には神が宿る」とも思えるのです。その感動がその後の自分を突き動かす原体験になっています。
良い場の中でこそ、人は何かに気付き、学び、成長し、前進するという多数のセッション経験から、「これは誰にとっても良い手法だ(もちろん起業家にとっても!)」という確信を持っているので、会社を超えて、世の中に広めていきたいと思っています。ある意味、深みあるコミュニティ作りとも言えるでしょう。
会社もどんどん潰れ、国も当てにならない、誰も頼ることもできない「個人の時代」に突入しています。もちろんこれはチャンスでもあるのです。自律した個人が、お互いにもっと協力し助け合うことが必要になって来たのです。
信頼でき、相互に助け合い、高めあう仲間こそが最も価値ある資産なのではないでしょうか。そんな人と人のとのつながりや問題解決に、ワークショップを通じて貢献していきたいです。今は新しい商業施設はどんどん増えますが、そういう場が圧倒的に少なすぎると思うからです。
そのためのプランを作成し始めており、キープラネットの皆さんにも、いつかご披露したいと思っています。 |
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Q |
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「この仕事をやっていて良かった!」と思われた出来事(エピソード)はありますか。
それはいつ、どんな出来事だったのか教えてください。 |
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A |
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組織変革の中で展開したワークショップでの最大の喜びは、人の変化に立ち会えることです。
実は、うちの部門の中で一番変わったと言われている方は、私の先輩に当たる50代のメンバーなのです。
以前は、仕事内容が変わったためか、仕事の方向性がなかなか見いだせなくて、上から言われたことをとりあえずやってみる「指示待ち族」でした。
それでも、なかなか上手くいかなくて、その不満を溜め込んだり、状況のせいにしてみたり・・・でした。
彼が変わったのは私の主催したワークショップに参加した時でした。
最初は、当時の上司に言われて参加してきたので、どちらかと言うと積極的じゃなかったんですよ。ところが、ワークショップがはじまったら、ある時点から変わったのです。
固かった表情が、だんだん柔らかくなり、黙っていたのが徐々に口を開くようになり、質問もしたり・・・。「なんかこういうの良いよね・・・」って戸惑う様な笑顔で言っていたことは印象的で、よく覚えています。
そのうち、意見を言うだけでなく、最終的には私の代わりにファシリテーターまで務め、活動の後半では自ら場作りまでやりだしましたから、私もびっくりです!(笑)
現在、彼は本業の方でも、4つのグループのコラボレーションの要(かなめ)になって、一番頑張ってくれています。
そういう風に変化する人がいるわけなのです。
彼も潜在的には「何かを変えたい!」って言う気持ちがあったのだろうとは思います。私はきっかけ、場、空気を作っているだけです。
私から彼を変えようとしたことは全然ないのです。まさに、本当に、きっかけを作っているだけということなのです。でもその様な色々な変化の瞬間瞬間が醍醐味なんですよ。
思わず我を忘れている喜びというか・・・。
病み付きになりますね。(笑) |
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Q |
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須賀さんのお仕事を、「家電」「料理」「文房具」など日常の身近なものに例えるとすればどんなものにあてはまりますか?
またその理由は? |
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A |
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そうですね。ハイスペックのサブノートのパソコンってところでしょうか!?
「一家(課)に一台(人)、ファシリテーター」と言っており(笑)、なくても何とかなるものの、居れば相当高機能で何かをする時、したい時、問題に悩む時、新たな何かに出会いたい時、お役に立ちます。
それに外側は変わらなくても、中味はどんどん学びを積んで進化していきます。新しいソフトウエアをインストールして機能を増していくPCみたいでしょう!?
そして何より大事なのはOSだと思っています。
ファシリテーションとかアクションラーニングとか色々なアプリケーションソフトを積んで機能はある意味高いですが、その底流に組織への思いとか、その中に居る人達への想いとかがある訳です。
単なるスキル・マンでは人からは信用されない。
自分でもまだまだと思いますが、スキル磨きだけでない人間磨きこそが大切です。高質なOSこそが本当に大事ですね。 |
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Q |
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仕事をされていて異業種とつながりを持つことはありましたか?
それはどんな業種でしょう?
また、そのつながりによって、新規に延びた販路やビジネスはありますか。 |
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A |
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変革の中では、同様の取組みをされている異業種やコンサルの方々と沢山、知り合いました。
また、コーチング、ファシリテーション、アクションラーニング、経営品質、リーダーシップ等の学習の中でも沢山の方々と知り合い、大いに刺激と情報を得て変革の推進力となっています。
例えば、初めてコーチングを学んだ際に出会った人に、パーソナルコーチをお願いしたのですが、まさに彼は「変革の伴走者」でした。
実際苦しい時とか、もう駄目だとか思う時とか、信じていた人の裏切りにも似た行為とか、いっぱいある訳です。
そんな時、パーソナルコーチと話し、本来の目的を思い返したり、ここで踏ん張る意味とか確認しながら、耐える処は絶え、頑張った処は認めてもらいながら本当にギリギリでやってきたなあという感じです。
社外の思いを同じくするコンサルの連中にも助けられました。
何の契約をしている訳ではなく、時々、研修でご一緒した位の浅い関係だったのですが、やはり思いを持って本気でやっていると、人にはそれが伝わるんですね。
ある時、変革のスポンサーである部門長が異動という事態になりました。
彼が居なくなると、私は抵抗勢力の餌食になって、仕事干されるか、部門から追放されるか、という絶体絶命のピンチになったことがありました。目の前が真っ白になって本当に恐怖を実感しましたね。
そんな時、そのコンサル2人が揃ってわざわざ会社まで、激励に来てくれたんです。感激しましたね〜。3人で一晩飲み明かしましたよ。その席上で「須賀さん、何かあったら骨は拾ってあげるから」と言われ、思わず涙がこぼれましたね。
結果として、部門長を異動させようとしていた役員自身が異動になるという神風が吹いて事なきを得たんですが、本当にそういう人達に支えられてきたというのが実感です。
最近講演や雑誌や取材で声がかかるようなったのも、コンサルとか知人が、私の知らない処で紹介をしてくれていたということが多々あって、そのお陰で仕事が広がっていて、本当にありがたいなあと思うばかりです。皆さんに感謝しています。 |
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Q |
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会社員である須賀さんが、起業家が80%を占める独立起業家のネットワークであるキープラネットに入会したきっかけは何だったのでしょうか?また、継続している理由は? |
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A |
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組織変革をやる前から、会社員には飽き足らないものを感じていたし、自由に何かをやってみたいと思っていました。
それに何より定年とか関係なく100歳まで働きたいという野望があり(聖路加国際病院の日野原先生が憧れです!)、起業の勉強もしたかったので、キープラネットに入会しました。
会社員にはないエネルギーや志をお持ちの方々にお目にかかれるのも魅力です。起業家支援をなさっているアントレプレナーセンターの福島正伸先生との出会いも大きかったし、今では川野さんを応援したいし、今後を見届けたいなという思いも強いです。
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Q |
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最後に、同じ仕事を目指す後輩にむけてアドバイスやメッセージをいただけますか。 |
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A |
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会社員諸君!もはや、会社員も、フリーランサーも、起業家も、経営者も、区別のない時代になりました。
誰でも、あくまで自分らしく夢を持って前進するならば、大いに未来は拓けますが、そうでなければ先はありません。現状に留まることは許されない。
ある人には辛く、ある人にはとても楽しい時代の到来です。
社内にあろうと、社外に飛び出そうと、アントレプレナー精神こそが重要です。
お互い頑張りましょう!
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株式会社リコー
画生こと(本)生統C電技室企画管理グループリーダー
部門変革「リニューアルプラン」世話人
須 賀 亨
所 在 地: 神奈川県海老名市
キープラネット入会:2005年6月
●出身地:東京都足立区千住
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